PTAの後輩からの質問に対して考えてみたシリーズ。
前回、こんなことを書きました。
今回は、「小中学校のPTAがなくなったらどうなるか」という質問について。
どんな変化が起きるか、考えてみました。
小中学校のPTAがなくなったらどうなるだろう?
PTAに関する不満がなくなる(労力・会費・個人情報等)。
PTAに関する現状の不満は、なくなるでしょうね。PTAそのものがなくなるんですから。
でも、それも「とりあえず」のような気がします。他にもいろいろな変化が時間差で現れてくると思うので。
学校側のさまざまな負担が増える。
金銭的負担:
学校には予算がないが支出する必要がある経費を、PTAが補助している現状があると思います(地元の小中学校では、特別支援教育関係の団体の会費をPTAが補助している例がありました)。そういうお金の出所がなくなります。必要なら、学校側がそれをどこかから調達しなければなりません。
人的負担:
行事を手伝う人数を集め、現場で陣頭指揮をとる役割がいなくなるため、それらの役割を全部先生方がやらざるを得なくなります。
行事開催の負担が学校にとって大きくなり過ぎれば、学校行事自体の見直し(縮小)につながる可能性もないとは言えません。
実際には、学校支援地域本部事業の地域コーディネーターが学校支援ボランティアを保護者や地域から集めているのであれば、そちら経由のお手伝いが増えることになるでしょう。その仕事が増える結果、PTAはなくても類似の組織、類似の役割が必要となり、同じように役員選びの問題や人集めの問題などが繰り返されることになりそうです。
地域との連携が難しくなる。
文科省の方針で、「小中学校を地域に開かれた学校に」とか「地域の教育力を学校教育に生かして」みたいなことが約10年前から言われています。ところが、校長・副校長・教頭先生レベルの先生はかなりの頻度で異動し、地域との関係が作りにくい面があります。PTAには学校と地域の間に入って橋渡しをする役割がありますが、そういうことがなくなります。
また、文科省や教育委員会から学校に、あれをやれこれをやれと仕事が降ってくる来ることはよくあります。地域が関係する仕事、例えば「地域も含めたこんな組織を作ってこんな活動をやれ」というような指示が降ってきたとき、PTAは他の地域諸団体とともに、そういう仕事を請け負わざるを得ない現状があります。事実上、行政の下部組織(下請け)というわけです。そんな場面で、PTAがなくなったらどうなるんでしょう?
保護者が学校に対して意見・提案があっても伝える窓口がなくなる
PTA会長や本部役員は、さまざまなことがらについて日常的に学校に意見を伝えています。そしておそらく、一般保護者から何か相談を受けたとしたら、それをうまく学校に伝えようという気持ちは持っているはず。そういう、相談・意見の経路がなくなります。
ただ現実には、そういう相談ルートがあることが一般保護者に認識されているかどうか。PTA本部役員が個人的知り合いにいれば相談してみようと思うこともあるかもしれませんが……。現状では、担任の先生に直接相談して済むレベルのことが多いのかもしれません。
(教育委員会に直接ねじ込むようなやり方は、いい結果を生まないと思います)
保護者を代表する組織がなくなる
これはそのままです。他の項目に影響することだと思います。
緊急時の対応(校内の問題、学校の不祥事、災害など)
問題が起きたときに、機能する組織があるかないかの違いは大きいはず。
学校内で何か問題が起きたとき。
学校と保護者が連携して問題解決にあたろうとするとき、そういう組織がなかったらどうなるんでしょう。
学校側に不祥事があったとき。
それを追及する必要があるでしょう。でも保護者の組織がなければ?
災害時。
PTAは、避難所になることが多い学校での貴重な実働部隊となるでしょう。もちろん、PTAを含む地域の活動を通じてできた人間関係は絶対に役立つはず。
学校に対する「外部の目」が減る。
学校というのは、校長先生の方針でどのようにでも変わるものです。
もし、校長の方針で学校が閉鎖的になったらどうなるでしょう?
保護者がPTA活動で日常的に学校に出入りしていることが、学校が閉鎖的になることを防いでいる面はあると思います。
最近は「開かれた学校」と言われることが多くなっているので、そういうことは起こりにくいと思いますが。
学校の評判への影響。
「PTAがないらしいから親にとっては楽」という評判が広まるかもしれません。その結果、児童生徒数が増えるかもしれません。
一方で、「保護者が学校に協力的でないらしい」という評判になるかもしれません。「学校の風通しが悪い」といううわさ話になるかもしれません。
保護者の組織が全くなければ、上記のように人的協力が減るかもしれません。
仮にそれが、行政のいう「地域の教育力」が低下することにつながれば、学校の魅力の低下→悪い風評→児童生徒数減少というスパイラルに陥るかもしれません。
例えば家を買うとき。子どもがいる家庭なら、その物件がどの小中学校の学区かは気にするでしょう。不動産業者も「人気の○○中学校区!」なんて広告に書いていたりします。住所を操作して学区外の公立中学に入学する子も結構います。
PTAの有無とは関係ありませんが、よくない評判のため新入生が近隣中学に流れてしまい、1学年のクラス数が減ってしまったという中学校も知っています。
人気が出たり、逆に悪い風評が流れたりすることになるのかどうか。
学校は、予算も人も限られています。「税金を払ってるんだから全部学校がやって当然」と言うことは簡単ですが、でもそうはいかないのが現状。行政は、「(保護者も含めた)地域の力でなんとかしてよ」という方向に進んでいるように思えます。
そんな中、保護者や地域の協力で教育活動がうまくいっている学校とそうでない学校ができたときに、その後どうなるかです。
保護者間のつながりが現状より希薄になるかも
前回も書きましたが、PTAは、他の保護者との交流の機会がそれ以外にない保護者にとって、他の保護者とのつながりをつくる機会の1つになっています(PTA以外には、小学生なら地域の子ども会、中学生なら学校の部活動の保護者会などもあるでしょう)。
普段のやりとりによってできる日常的な「顔の見える関係」が、問題の発生を未然に防いだり、発生したときに深刻にならずに済ませることに役立っているのではないか、そしてそれに貢献している1つがPTAの活動ではないかと思うのです。
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PTAがなくなったらどうなるかを想像し、思いつくままに書き並べてみました。
仮にPTAがなくなったとしたら、一見ラクになったようにみえても、問題は時間差でじわじわと表れてくると、私は思います。
そうなったとき、保護者の組織を再結成できるか? 西東京市などで類似組織を改めて立ち上げた例があるようですが、現実にはかなりの労力でしょう。
とはいうものの、現状のままでいいとは決して思いません。
保護者が集まる組織としてのPTA(または保護者会)を今後も維持していくためにどうすればよいか、考えていく必要があります。
私自身の経験では、地域密着度が小学校よりも低くOBの干渉が減る中学校PTAの方が、活動の見直しは進めやすいのではないかという気がしています。
Photo by 写真素材 足成