前回、公立小中学校に対する地域の支援と寄付について書きました。
- 小規模特認校には、「入学の条件」がつけられていることがある。
- 個別の学校への物品の寄付は可能。そのための組織を作り、寄付を集めることだって可能。
- 今後、保護者・地域の協力の多寡によって教育内容そのものに差が付くようになっていくかも。
という内容です。
上記記事に対してさっそくコメントが。
" 学校への寄付を募る組織を,教育委員会主導で学校ごとに作ってしまった自治体も知っています。もちろん形としては,学校から独立した団体です。その団体が寄付を集めれば,その団体内での協議により学校の備品をいくらでも買えるわけです "
— knockout_ (@knockout_) 2018年2月19日
わーお、そんなことができるのか。というか教委主体って…
公が自ら再配分機能を放棄してしまったらアカンがな!部外者的には思うけど、当の自治体の住民の反応はどうだったんでしょうね
— knockout_ (@knockout_) 2018年2月19日
コメントをいただけるのは本当に嬉しい。
というわけで、そういう組織を作ったらどうだったのか? という点についてもう少し詳しく書いてみます。あくまで、私が聞いた範囲ですが。
寄付を集める組織がどうやって作られたか。
そんな組織がどうやってできたのかというと。
教育委員会が、各小中学校に対して「学校への寄付金を受け付けて管理する組織を地域に作ってもらえ」と指示したわけです。
教育委員会が、自治会など地域諸団体に直接何かをお願いするルートはありません。あくまで、学校に対する指示です。
学校は教育委員会の方針に従う以外選択肢はありませんから、校長が、PTAや地域諸団体と相談してなんとか対応することになります。これは、学校評議員会や学校支援地域本部、放課後子供教室、学校運営協議会などの設置と全く同じ流れ。違うのは、この寄付金受付組織の設立が、その自治体独自の施策だというだけです。
運営は。
こういった組織は、担い手が常に足りません。私の経験では、地域の方々で頭数は揃えられるとしても、中心メンバーを「地域の方々だけ」で構成することはまず不可能です。というのは、自治会など地域諸団体の中心になっている方々がみなさん高齢だから。こういった活動を中心になって推進するにはいささか荷が重いのです。商店会がある商業地などでは状況は違うかもしれませんが、私が知っている例は学区が住宅地。従って、事務方すなわち実働部隊は、必然的にPTA(現役保護者)の役割ということになります。
校長がPTA会長や自治会長などと相談した結果、結局は、他の似たような組織と同じように、PTAと地域諸団体の代表からなる「いつメン」が、名前だけ違う会議に集まる感じに。
「上から」言われて作った組織ですから、どうしたって活発な活動にはなりません。
実際の寄付金の状況は。
従って、寄付を積極的に集めて回るほどの活動もできません。PRするにも、紙代や印刷などの経費がかかります。その経費はどこから? =寄付金自体から、なんてことになったり。
しかも、有志による寄付とは言っても、後になって「強制された」とか「断れなかった」といったクレームが出ては困ります。ですから、あまり積極的に寄付を募ることもしにくい。
私が聞いた例では、学区内自治会からの毎年ごくわずかな寄付が中心のようです。自治会予算は使途が毎年だいたい決まっています。しかも自治会どうしのつきあいもありますから、横並び意識も働きます。従って、予算に余裕があるかどうかにかかわらず、学区内自治会は全部、同じ少額を寄付という形になりやすいとのこと。
まとめると、
- PRなどの活動が難しいなか、個人で寄付する人は少ない。
- 期待できるのは学区内の団体からの寄付だが、会計に余裕があるわけでもなく、多額の寄付は起きにくい。
という状況のようです。
学校への物品寄贈状況は。
では寄付金による学校への物品寄贈は? これにもいくつか考慮すべき点があります。
金額の問題。
学校の備品は、ちょっとしたものであってもかなりの金額がかかります。毎年、数十万の予算を使えるのならともかく、数万から十数万程度の予算では、大したものは買えません。
継続性の問題。
寄付のベースが不安定だと、毎年の予算規模が一定しません。なので、予算のある年にたまたま必要なものを買えるにとどまります。予算の変動や先細りが予想されるのであれば、毎年必要になるものを定期的に買うようなことはできません。
心理的問題。
地域主体の組織がお金を持っていて、学校に「何か必要なものはありませんか」と尋ねたとしても、公立の学校側としては、おいそれと「では○○を買ってください」とはなかなか言いにくいのではないでしょうか。
なので、すぐに学校間の格差につながるとは思えない。
このような状況なので、学区ごとに寄付金を管理する組織が作られたからといって、それがすぐに学校間の格差につながることはないと言えます。
それよりは、普段からのPTAや地域諸団体の活発さの有無の方がよほど影響が大きいです。
しかし今後は?
私が知っている限られた例について書いてみました。
でも状況によっては、違った可能性も考えられないわけではありません。
例えば、お金持ちの個人や企業・経営者が、そういった組織にポンと多額の寄付をしたら?
お金を出すということは口を出すということでもあります。人手不足の寄付金管理組織に自ら参加し、物品購入の決定に大きな影響力を持つようになったら?
そしてさらに、学校運営協議会にまで加わり、学校運営にまで大きな影響力を持つようになったら?
大げさなことを言えば、私立学校の理事長のようになってしまう可能性も……?
上記の「心理的問題」(「○○を買って」とはいいにくい)の背景には、そのように地域の発言力を不必要に大きくしたくない(変にかきまわされたくない)という学校側の意識も働いているように思います。
ゼロを1にするのは結構大変ですが、1を2にするのはそれほど大変なことではないでしょう。いったん枠組みができてしまったら、それが将来どのように変化するかはわかりません。
まあ、杞憂にすぎないでしょうが。
そういえば、中学校の部活動に関連して気付いたことがありました。
先生の長時間労働解消のため、部活動指導者を地域に頼もうという流れになりつつあります。ではそのような状況で、部活動の費用はどうなるでしょうか。それについても、別の機会に書いてみたいと思います。
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ところで、『巨人の星』で星飛雄馬が進学した青雲高校は、私立高校だったかな。
PTA会長の伴大造は莫大な寄付をして学校を牛耳っていました。
(『巨人の星 1』原作:梶原一騎、作画:川崎のぼる、講談社漫画文庫より)
マンガとはいうものの、50年前のPTA会長ってこんなイメージだったんだろうか…。