今回読んだのは,これ。
東京,神保町にある小さな食堂。
メニューは定食1つだけ。
しかも,「まかない」「あつらえ」「さしいれ」という謎システムが。
そんなお店の店主が書いた本です。
「ただめし」というタイトルの印象から,「フードバンク」や「子ども食堂」のような感じの話かなあと思って読み始めました。
ところが,著者が目的とするのは,それにとどまらないもっと広いもの。
学生のときに何気なく入った喫茶店での経験。
家出して経験した「居場所」のありがたさ。
そんな経験に基づいた,「誰もが自分でいられる場所を作る」というポリシーが貫かれています。
経歴も異色。
理学部数学科出身。変人ですね……(褒め言葉)
ITエンジニアとして大企業,そして今をときめくIT企業に勤務。
その後,いくつもの飲食店で修行し,開店へ。
店のシステムが,これまた普通じゃありません。
IT企業の経験に基づいた「オープンソース」。事業計画や経営状況,店のノウハウが全部公開されています。
「まかない」としてお客さんが手伝いに入るため,お客さんにも隠しごとが全くできない仕組み。
「まかない」に対して提供される1回分の食事券を,他の人に使ってもらうことができる「ただめし」。人と人の関係を,直接の対面や1対1の「閉じた関係」でない,螺旋型のコミュニケーションとして開いていく試み。
※私も以前,「開いた関係」についてこんな記事を書きました。 nshufu.hatenablog.com
「顔パス,常連さんという概念がない」という距離感,私は好きです。
変わったことをやって批判されたり,手の内を全部公開して大丈夫なのかと指摘されたり。
それに対して,著者 / 店主は,
「真似されたとしても,未来食堂には未来食堂自身の価値があります」
「未来食堂が打ち出す次に一手を,未来食堂より先に打ち出すことはできません」(原文ママ)
と答えています。
「まかない」としてやってくるさまざまな人を受け入れる。
「ただめし」券を利用するさまざまな人を受け入れる。
「あつらえ」のリクエストを受け入れる。
そんな「覚悟」が,全体を通じて感じられる本です。
※ ところで,「未来食堂」の目指す方向とは違いますが,こんなマンガを思い出しました。