NHK Eテレ「オイコノミア」、2017年7月5日の放送を見ました。
今回の放送は、「分かって得する!原因と結果の経済学」。
そして慶應義塾大学准教授の中室牧子さん。『「学力」の経済学』が去年話題になりました。今も書店で平積みになっています。
以下、番組の内容です。
========
「テレビを見ると学力が下がる」は正しいか。
米スタンフォード大学のマシュー・ゲンコウ教授の調査によると、「幼少期にテレビを見た子の方が成績が高い」という結果が。(詳細は後ほど)
→もっともらしい通説ほど、疑ってかかるべき。
原因と結果、因果関係を明らかにする「因果推論」。
因果関係を明らかにする方法論「因果推論」は、米国大学では必修になっているが、日本ではそうなっていない。
企業や官庁、テレビなどでも、本当に原因と結果の関係にあるかどうかわからない、あいまいなことが語られている。
因果関係があるかどうか、どうすればわかるか。
例1:「地球温暖化が進むと海賊の数が減る」は正しいか?
グラフを見ると、確かに減っているように見える。
でもこれは見せかけの相関。一見するとそう見えるが、まったくの偶然。
このように疑問をもちやすい場合もあるが、もっともらしいことはどうか?
例2:「体力のある子どもは学力が高い」?
"体力がある方が勉強にも集中できるから" → もしそうなら、本当の原因は「集中」
"運動を頑張れる方が勉強も頑張れるから" →もしそうなら、本当の原因は「意欲」
なので、体力が直接の原因であるわけではない。
因果関係があるなら、「体力がありさえすれば学力が上がる」ということになる。
→ それ以外の第3の要因(「教育熱心な親」)がある。これを見落とすと錯覚する。
例3:「警察官が多いと犯罪者が多い」?
これは因果関係が逆。
因果関係があるかどうかのチェックポイント
- 全くの偶然でないか
- 第3の要因がないか
- 逆の因果関係がないか
人はなぜ因果関係があると思い込むのか。
ヒューリスティック・バイアス
「人が意思決定を行うとき経験則で物事を判断する傾向にあること」。
例:受動喫煙防止対策
現在の喫煙者の割合は19.3%(2016年 JT調べ)
しかし自民党議員の7割が加盟している自民党たばこ議員連盟は多くが喫煙者。
なので自分の周囲の環境で判断してしまっているのではないか。
チェリー・ピッキング
「多くのものの中から自分に都合のいいものだけを選んでしまうこと」
例:
「受動喫煙によって肺癌のリスクが1.3倍上昇する」(国立がんセンター発表)
「受動喫煙防止法施行なら外食8401億円減収」(民間調査)
飲食店経営者なら後者を信じたくなるのではないか。
実際には前者は複数の研究に基づき検証されているが、後者は単なる予想に過ぎない。
実際には、国内外の複数の研究によると、喫煙規制で飲食店の売り上げは減らない、または増えるという因果関係についての研究がある。
成功者の経験談。
個人の経験談は一般化が難しく、再現性が低い。
為末大さんの話「ウサイン・ボルトのまねをしてもウサイン・ボルトにはなれない」
→ 経済学者は、大量に集めたデータから因果関係を統計的に検証する。
因果推論を行うのはなぜか?
時間やお金を無駄にしないため。
どうしたら原因と結果の関係を知ることができる?
「反事実」…「仮に○○をしなかったらどうなるか」
例:"テレビを見る"に対する"テレビを見ない"。
この2つを比較すれば検証できる。
しかしタイムマシンやコピーロボットがあるのならともかく、現実には検証できない。
そこで、よく似た2つのグループで、片方だけを反事実の状態にして比べる。
「単位パン」の実験。
「単位パン」を食べると単位を取れるか?
クラスを、学籍番号の末尾が偶数か奇数かによって2つに分け、片方のグループには試験前に単位パンを食べてもらい、成績を比較する。
学籍番号はあいうえお順なので、ランダム(=「無作為」)。
ランダムなグループなら、十分に数が多ければ成績の差はなくなり、「比較可能」になる。(違いは、「単位パン」を食べたかどうかだけ)
結果は?
食べたグループ:17.5、食べなかったグループ:16.7,統計学的に有意でなかった。
このようなランダム化比較試験は、倫理的に不可能な場合もある。
そのような場合に行われるのが「自然実験」。
自然実験。
実際にそのような状況が生じた事例について研究すること。
テレビを見た子どもと見なかった子ども。
1948年から1952年にかけて、放送免許の関係でテレビを全くみられなかった地域が生じた。テレビがみられた地域の子どもは1日平均3時間半見ていた。
この2つの地域の子どもの小学校入学時を比較した結果、テレビを見ていた地域の子どもの方が偏差値が0.02高かった。
これが、テレビと学力向上の間に因果関係があったと判断できる研究(スタンフォード大学、マシュー・ゲンコウ教授)。
育児休業を延長したらどうなるか。
オーストリアでは、それまで1年だった育児休業が1990年7月から2年に延長された。
そこで6月出産、育休1年の母親と7月出産、育休2年の母親の復職率を比較した結果、育休2年の母親の復職率は10%低下した。
(ローザンヌ大学ラファエル・ラリブ教授の調査)
(スキルや人間関係の減耗が理由ではないかと言われている)
よかれと思った政策が…
よかれと思ってやった政策が期待しない結果をもたらした場合、大きな損失を産む。
なので、科学的根拠に基づく政策が必要。因果関係を示唆する学術的研究を政策判断に用いなければならない。
反事実を想像することが必要。(テレビを見ている子が見なくなったらどうなるか?そうすれば勉強するか?)
========
番組内容はここまで。
科学的根拠に基づく=evidence-basedは、いろいろな分野で言われていることなのでしょう。
「テレビの研究」について言えば、戦後すぐの「大昔」の時代ですから、それが現代でどの程度有効かという議論は当然あるとは思います。そのあたりに研究の限界(=適切な条件で比較することの難しさ)があるのかもしれません。
因果関係と反事実の話。「Aが原因となってB」という仮定に対して「Aでなければ?」と考えるとのこと。
「AならばB」の対偶「BでないならAでない」のことを考えましたが、これは因果関係とは意味が違うんでしょうね。もう少し考えてみよう。
これに関連する内容についてはいろいろ思うことがあるので、記事をわけてもう少し書いてみようと思います。
再放送は本日深夜(2017年7月6日24時30分~25時15分)です。