以前、こんな記事を書きました。
引用した朝日新聞ウェブサイトの元記事が消えてしまっています。どんな内容だったかよく覚えていませんが、「大学に進学して下宿を始めても、住民票を実家から移さないままの学生が多い」といったような内容だったと思います。
住民票を移さないと、
- 住んでいる場所(下宿先)での選挙権がない。
- 住んでいる場所での成人式の案内などが来ない。(実家で出るのが前提なのでしょうか)
- そもそも、転居したら14日以内に転出・転入の手続きをしなければならないと法律で決まっています。
- 住民として登録されないまま、住んでいる場所の行政サービスを受けることになる。
といったことを言うまでもなく、そもそも「引っ越ししたら住民票を異動するものだ、それが当然だ」と私は思っていました。なので、それをしない人・親がいると知ったときは「一体どうして? なんで?」と思ったものです。
でも、その気持ちがほんの少しわかったような気がした。
現在、ウチでは末っ子が受験の真っ最中ですが、受験するのは本人。
私はといえば、その先の準備をぽつぽつ始めています。
その先、つまり下宿を始める準備です。現役で進学してもらうことにしているので。
長男のときは、新生活の準備を本当に「全力」でやったものです。
アパートの部屋を決めた後、家具や家電製品、日用雑貨をかたっぱしから手配。
新しく購入する一人暮らし用冷蔵庫の上に載せる小さな棚を、わざわざ板を切って作ったりまでしていました。あのときは、我ながらよくやった……。
2回目の、長女のときも同様です。部屋の各部の寸法だけでなくコンセントの位置まで測り、長さと本数を考えてテーブルタップ(延長コード)を用意したり。
そして3回目の今回。
少し、心境の変化があります。
それを一番感じたのは、食器をどうしようかと考えたとき。
長男ときも長女のときも、ごはん茶碗は家から持っていくとして、それ以外は最低限の食器を新品で買って持たせました。汁椀、中皿、小皿、どんぶりぐらいだったかな。
ところが今回は。
家に残るのはもう妻と私だけなので、食器は家にあるものの中から選んで持っていってもらおうかなあ、という気になったんですよ。
そのとき、何となくわかったんです。
こういうことか、と。
家にあるものをとりあえず持たせて送り出す。
まるで、学校行事のキャンプや合宿、修学旅行のように。
意識的にか無意識的にか、「現実的に毎日往復はできない距離だからとりあえず泊まる」といった程度の、「あくまで仮住まい」のつもり。
子どもの住民票を下宿先に移さない親は、そんな気持ちなのではないかと。
だから、「卒業したら実家に戻る」のが当然のように考えてしまうのでしょう。
下宿先はあくまで「学校に通うための仮住まい」という意識なのでしょうから。
食器のことを考えていたら、そんな親の気持ちが少しだけ想像できた気がしました。
実際は、「仮住まい」でもなんでもない。
そういう親は、今度は子どもの大学卒業が近づくと、きっと「家に戻るのが当然。地元で就職するのが当然」と考えて、子どもとの間で軋轢を生じるのだろうなと思います。
子ども本人にしてみたら、実際には仮住まいでもなんでもなく、四年間も一人暮らしをしていたんですから。
子どもが親から独立したという気持ちでいる一方で、親が家に戻ってこいと強く言ったり、まして地元で勝手に就職先を決めたりしようものなら、一生しこりを残します。
そういう、「子は親の言うことを聞くもの」と思っている時代錯誤な親が、現代でも生き残っているのかどうかわかりませんけどね。
私は、大学に進学して下宿を始める子どもを、「もう一緒に住むことはない」ものと思って送り出しています。