北海道胆振東部地震による全道停電について、世耕経済産業相が以下のように発言したとのこと。
「数時間以内に電力復旧のめどを立てるよう指示した」との発言。
これが批判されています。
「これだけの大災害なのに、わずか数時間で電力を復旧させられるわけがない。政治家の醜いパフォーマンスにすぎない」という批判、非難です。
しかし、私は言葉・表現の解釈の点から、ちょっと違うのではないかと感じました。
「めど」とは?
まず、「めど」とは何か。
漢字では「目処」。「目途」は(政治家がよく使う言い方ですが)「もくと」と読まれることも多いようです。
「目指すところ。目当て。また、物事の見通し。」(goo辞書、デジタル大辞泉)
「目あて。目標。見当。」(大辞林)
「目標」のほか、「見通し」、つまり予想・計画といった意味もあることがわかります。
そこで、問題の発言を言い換えてみると。
「数時間以内に電力復旧の目標を立てるよう指示した」
「数時間以内に電力復旧の見通しを立てるよう指示した」
……文章から受ける印象が変わってきませんか?
しかし、「電力復旧の目標」「電力復旧の見通し」の部分の意味が、なんとなく曖昧に感じます。
直前の単語が名詞の場合。
もう1つの問題は、直前の名詞、つまり「電力復旧」が名詞であることです。
「数時間以内に電力復旧のめどを立てる」は、
「 数時間以内に電力を復旧させることを目標にする」という意味なのか、
「数時間以内に電力復旧の見通しを立てる 」という意味なのか。
前者なら「数時間で復旧させることが目標」になりますが、
後者なら「電力復旧の見通しを立てる=電力復旧のための計画を立てる」だけです。
……意味が全然違ってきます。
主語+動詞のカタマリが文中にあるとき、それを名詞の複合語に置き換えることはよくありますが、そうすると、省略した「主語+動詞」部分の意味があいまいになります。
修飾語の位置。
さらにもう1つの問題は、修飾語の位置。
「数時間以内に」がどこに係るかです。
日本語の文法についてはシロウトの私ですが、「~に」(連用句とでも呼ぶのでしょうか)は、動詞などの用言との結びつきが強いはず。であるなら、
「数時間以内に電力復旧のめどを立てる」は、もしかしたら
「数時間以内に(電力復旧のめどを)立てる」、つまり
「電力復旧のめどを数時間以内に立てる」つもりの発言ではなかったか。
修飾語はいちばん近い単語を修飾する、というのが基本的ルールではありますが、「遠い単語を修飾している」と考えた方が自然な場合はよくあります。具体例は思いつきませんが、単なる「不適切な言い方」、あるいは「話がヘタ」というレベルで日常的に経験することです。
そんな場合も意味が自明であるなら解釈の問題は生じませんが、自明でない場合は、複数の解釈が可能になってしまいます。
また、「復旧」という名詞に「復旧させる」という用言のニュアンスを感じることも、修飾関係の解釈が分かれる原因になりそうです。
このように考えてみると、世耕経済産業相の
「数時間以内に電力復旧のめどを立てるよう指示した」という発言は
「電力復旧がいつになるかの見通しを数時間以内に立てるよう指示した」という主旨の発言だった可能性もあるのではないかと思うのです。
(なので、冒頭の引用記事のうち、産経ニュースの「数時間での停電復旧を指示」、時事通信の「数時間以内の復旧指示」と言い切っている見出しには疑問を感じます)
もちろん、被害は甚大だったでしょうから、計画を立てるだけであっても数時間では難しかったのかもしれません。それに、政治家は常に適切な発言、誤解を招かない発言をするよう注意が必要なのは確かだと思います。
言葉の解釈は難しい。
言葉にされた結果と本人の意図は違うのではないか、言いたいことが言葉に表れていないのではないかと勘ぐってしまうことがよくあります。
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