2017年3月8日放送のNHK Eテレ「オイコノミア」は、「オトナのたしなみ、マナーとルールの経済学」でした。
出演は又吉直樹さんのほか、日本大学准教授の安藤至大さん、ゲストは壇蜜さん。
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そもそも、マナーとは何か?
経済学では、マナーは「社会的規範」。
「集団や社会の中で、長期的関係を通じて形成された、みんなが守るべきよい行動・態度」。
マナーを守る理由としては、次の3つがある。
- 短期的には得でなくても長期的に得をする。
例:サッカーで負傷者が出たときには相手チームもボールを外に出す。→自分のチームで負傷者が出たときも相手チームにそうしてもらえる。 - ある種のシグナルを送り、その結果、他の取引で利益を得られる。
例:自分が信用に値するというシグナルを送り、相手を安心させれば、仕事上で得をする。 - 本人にとっての主観的な利益がある。
例:席をゆずると自分が嬉しい。
マナーとルールの違い。
違い:
明文化されているかどうか。
罰則やごほうびで守らせるかどうか。
イスラエルでの実験:
保育所が5時で閉まる。それまでに迎えに来るのがマナー。
遅刻がみられたので、10分以上遅刻すると500円の罰金にした。
その結果どうなったか? → 遅刻が増えた。
罰金が作られたことで、「社会的規範」が「市場的規範」に変化した。
しかも、罰金制をやめても、遅刻数は増えたまま元に戻らなかったという。
犯罪を犯すインセンティブがどのようなときに働くか。
ノーベル経済学賞を受賞したゲーリ・ベッカーの理論。
それによって得られるもの ≧ 失うもの × 摘発される確率
となるとき、犯罪を犯すインセンティブが働く。
(例)放置自転車を減らすには?
放置する便利さ・快適さ ≧ 自転車を取り戻す費用 × 撤去される確率
の式から考えると、
- 自転車を取り戻す費用を増やす。→金額を上げる、遠くまで取りに行かなければならなくする
- 撤去される確率を上げる(巡回頻度・人員など。難しい)
といった方法が考えられる。
が、実際には放置自転車は1/10に減っている。方法は?
駐輪場を整備したから。
成功理由:価格差別。
「同じ商品を相手によってそれぞれ異なる価格で売る手法」
全体の売上を伸ばすことが可能になる。
駐輪場では、短時間利用者は無料、長時間利用者には無理のない有料という差を付けることで利用者を増やすことができた。守られる価格にすることがいい結果につながる。
マナーでもないルールでもない第3の手法、ナッジ。
ナッジ(NUDGE):
2008年、リチャード・セイラーとキャス・サンスティーンによって発表される行動経済学の理論。社会の仕組みによって人々が自然とよい行動を選ぶように仕向けることができるという考え方。
2011年のデンマークでの実験。
街角でキャンディーを渡すとゴミを道ばたに捨てる人が多かった。
そこでゴミ箱に向かう足跡を路上に描いたところ、ゴミ箱に捨てる人が46%増えた。
→コペンハーゲン市内1500ヵ所のゴミ箱に足跡を描くことが決定された。
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再放送は本日(3月9日)深夜です。興味のある方はご覧ください。
今回の内容とは少しずれますが、行動経済学の実験で興味深いと思ったのが、『予想どおりに不合理』に載っていたボランティアに対する報酬の話です。
協力してくれていたボランティアに対して、少しでもお礼をと報酬を出すようにしたところ、「こんな少額ではやってられない」と、協力が得られなくなってしまったとか。
行動の原理が「奉仕の気持ち」から「市場原理」に変わってしまうからなのでしょう。
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少額の報酬を出すべきかどうか、出したとき・受け取ったときのモチベーションや、責任に関する当人や周囲の意識は、……なんてことを、PTA活動の中でもときどき考えたりしたものです。