別の本を探しに行ったショッピングモールの書店で、見慣れない出版社の、目立つ装丁の本が目にとまった。
『N女の研究』(中村 安希 著、フィルムアート社)
著者の友人女性がITベンチャーを退職し、迷いながらも非営利業界に転職したという冒頭のエピソード。僻地のしょぼい事務所で仕事? と思っていたら、送り込まれたのはなんと六本木ヒルズだったとか。
えっそうなの? NPOってそんな世界なの?
つかみはOKである。
N女とは、本書に登場するNPO法人「NPOサポートセンター」の杉村さんが使った言葉。
「NPOなどの非営利セクターから営利の社会的企業までを含めたソーシャルセクターで働く女性」を、そう呼んでいるそうだ。
中でも、大企業でも活躍できる高い能力を持ちながら、あえてソーシャルセクターで働くことを選ぶ女性が出現し始めているという。
そんな女性たちへのインタビューをまとめたのが本書。
登場するのは、
- NPO法人難民支援協会
- NPO法人NPOサポートセンター
- NPO法人クロスフィールズ
- NPO法人ティーチ・フォー・ジャパン
- 有限会社ビッグイシュー日本
- NPO法人コモンビート
- NPO法人育て上げネット
- NPO法人ビッグイシュー基金
- NPO法人ノーベル
のそれぞれで働く女性たち。
とにかくバイタリティに溢れ、日本と海外、大学と民間企業と行政と非営利組織との間を軽やかに渡り歩いてキャリアを重ねていく女性たち。彼女たちをそんな風に表現したくもなってしまうが、それではあまりに美しすぎるだろう。
その陰で、自分の目指すものや自分の適性・興味とのズレに葛藤し、結婚・妊娠・出産・子育てといったライフイベント・ライフステージの変化に直面し、そのたびに難しい選択を繰り返し、乗り越えてきたはずなのだ。
そういったもろもろのことを全て外向きのエネルギーに変えることができる彼女たちだからこそ、問題を個人のレベルに閉じ込めるのではなく、「社会化」し、行動できるのだろう。
以下覚え書き。
- 内閣府が出しているNPO法人の実体調査報告書によると、全体の約1/3の団体は無給で活動している(いわば「ボランティア型」)。
- 収支報告書がちゃんと作成されていない、このご時世ネットを活用できていないなど、NPOの状況はさまざま。
- NPOの信用、社会的認知度はまだまだ低い。
- NPOはかつての市民運動のような「手弁当型」から「ベンチャー型」運営に変わりつつあるが、まだまだ手探り状態。
- NPOで働いても配偶者の収入がなくてはやっていけない場合が多いのが現状。NPO常勤有給職員の人件費の中央値は222万円(平成25年度、内閣府調査)。
冒頭に出てきた著者の友人は、その後、非営利団体を退職してIT業界に戻ったという。
やりがいのある仕事と環境を求めて、人生を選び取っていく彼女たち。NPO業界自体はまだまだ先の見えない時期が続くのだろうが、それは社会全体も同じこと。彼女たちなら、きっと何がどうなっても生き残れるだろう。
彼女たちのような人はごくごく一部だという考え方もあるかもしれない。でも、問題意識を持ち社会をよりよいものにしようと考える若く優秀な人たちには、どんどん先頭を走って後続を引っ張ってほしいし、ソーシャルセクターがそういう人たちを惹き付ける場でもあってほしい。課題解決のためなら無給でもいいというはずはないし(「非営利」の意味するところがもっと一般に浸透してもいいと思う)、知識や経験、スキルがない熱意だけではどうにもならないはずだから。
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NPOも十分に就職先の選択肢になっているんじゃないかと漠然と思っていたけれど、やはり現状は厳しいようだ。もちろん、ベンチャー企業への就職と同じ程度の不安定さはあるだろうと思ってはいたが。
新卒でNPOを考えたが先に民間企業で経験を積んでからにした、という人も登場していた。
大学生の娘にも読ませようと思う。